小さな恩返し

ヤマシタケンタ

2011年03月28日 22:30


野菜の収穫があると、
僕は母の実家にある作業場で袋詰めをする。
時折少し多めに収穫したり、不揃いの野菜があったときなどは、
いつも叔母へプレゼントしてきた。

それが、いまの僕にできる小さな恩返しのつもりだった。

先日も、いつもと同じように深ネギを多めに収穫した。
そして、いつもと同じように叔母のもとへ届けると
ありがとうと言って台所の奥へと向かい、なにかを取り出してきた。

テーブルの上に出されたものは、小さな貯金箱だった。
裏には黒いマジックで「野菜代」と書かれている。

僕は、ハッとした。

この1年半、
小さな恩返しのつもりで野菜を育て、叔母のもとへ届けてきたというのに
1年半ものあいだ、僕には内緒で僕のために「野菜貯金」をしていたのだった。

僕が野菜を届けるたびに、コツコツと貯金してきたのだ。
まったく、恩返しのつもりが僕の知らないところで、それさえも支えられていたのだ。

本当に頭が上がらない。

こんなとき、僕は祖母の口癖を思い出すー

「人様から受けた恩だけは、絶対に忘れたらダメ。」

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